(2015/7/16)『保育園義務教育化』という本を読んだ。
『保育園義務教育化』という本を読んだ。
紹介する様々な統計データや知見の一つ一つに 同意できる部分は多かったが、根っこにある主張に同意しづらいものが残る。もやもやした気持ちである。
政策提言の本として
政策への提言を抜き出せば、幼少期の教育に掛ける投資が他の時期の教育投資に比べてもっともコストパフォーマンスがよい、というものと、保育園を利用することに偏見が残る日本では義務教育化することによって保育園の利用を選択する心理的障壁を下げられる、というものである。
たとえば利用料の無償化とか、本でも紹介があった保育園の設立規制*1の緩和とか、他にも現実的で有効な施策があるのだろうに、なぜ「義務化」という、実現可能性も低そうだし反発も呼ぶだろう施策を提案するのか、よくわからない。
そもそも「義務教育化」の意味するところを正確に理解できなかった。義務教育の早期化のことなのか。保育園や幼稚園の柔軟な利用を可能にする仕組みのことなのか。
育児書として、自己啓発本として
それはまあしかし、置いておくとして、早期の教育が重要だ、という主張に関しては既存の研究に依存しており、この幼児教育の奨励が、ひっかかっている。たとえば中室牧子さんの研究を紹介したり:
中室さんによれば、経済学者の中でほぼ定説となっている見解があるという。 それは「子どもの教育にお金や時間をかけるとしたら、小学校に入学する前の乳幼児期の教育が一番重要だ」というものだ。
さらに、ノーベル経済学者の研究を紹介したりしている:
ノーベル賞受賞者が断言「5歳までの環境が人生を決める」 乳幼児期の教育が子どもの「非認知能力」を高め、それが「人生の成功」において非常に重要なこと。これを学問的に証明し、ノーベル経済学賞を受賞したのが、シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授である。
このあたりの知見を批判する材料を持ち合わせていないので、私としてもそうなのだろうとは一旦は考えてはいるのだが、どうも納得しづらい感情もある。
それは私が、人はずっと成長するという心情を持っていることに由来する。成人教育を生業としているのがバイアスを掛けているのかもしれない。幼児期の教育の重要性を重視することが、すでに大人である私の成長意欲をくじく、というのが納得しづらい理由である。
本書では、三歳児神話がまさに神話であることが説明されている。三歳児神話とは三歳までは母親が育てろ、という主張であり、その根拠は薄弱である。それはわかる。ところで、幼児教育の重要性の過度の強調が、新たな神話、幼児教育神話を作り出すのではないかという思いがある。
育児書としては、そんな知見があるものかと思っていまやっている子育てに勤しむ、その行為をサポートしてくれるありがたい本ではある。一方で自己啓発書的な観点で読むと否定したい本ではある。
悩ましい思いである。
熱く激賞する書評:
熱く激賞するツイート:
ゼロ年代後半から続いた若手論客ブームを今回の古市憲寿の著作『保育園義務教育化』(小学館)は完全に終わらせたと思います。これは明確な社会変革への意志です! 東浩紀にも宇野常寛にも書けなかった本だと思います→@kamiyamasahiko
— 中森明夫 (@a_i_jp) 2015, 7月 13